数えで十八になる江戸時代の少年。大店、呉服屋の一人息子。手代の貞吉に憧れて、黒髪を一つに縛っている。
周りには「若旦那」と呼ばれている。貞吉と二人っきりのときは未だに「坊ちゃん」と呼ばれており注意はするが、言っても無駄だと分かっているためそれ以上はなにも言わない。
女性に簪を送るのが好き。
心臓が弱く、離れで静かに暮らしている。出かける際は印籠を持ち歩いている。
やまなし ぜんのすけ
月見里 善之助
善之助の幼馴染み。数えで十六歳。周りからは「お春」と呼ばれている。
小さな商家の娘で、善之助と想い合っていたが、もっと大きな商家へと嫁いでいく。
普段は「善之助」や「貞吉」と呼ぶが、小さな頃からの癖で、善之助のことを「ぜんちゃん」、貞吉のことを「さっちゃん」と呼ぶことも。
清十郎の元に嫁に行く際、善之助から簪を貰い、生涯大切にしていた。嫁に行ったあとは大村春となる。猫舌。
てらだ はる
寺田 春
さだきち
貞吉
善之助の店で働く手代。奉公に来る前は「貞二郎(さだじろう)」、小僧の頃は「貞松(さだまつ)」と呼ばれていた。数えで二十二歳。黒髪を一つにくくっている。この時代では珍しく高身長。
喧嘩が強く、ごろつきに絡まれる善之助をよく助けている。その強さが身体の弱い善之助には憧れで、髪型を真似られている。酒と女が好きで、美人を見かけるとすぐに口説きに行く。手代となり、給金を貰えるようになってから、よく女遊びをするようになった。実は小僧の頃からお春を密かに想っている。それを隠すために女遊びをしているが、小紫という遊女と出会ってから彼女を意識するようになる。いつか暖簾分けされ、自分の店を持つことが夢。
いちよう
一葉
お春の店で働く奉公人。数えで二十歳。童顔。
六歳の頃から働き、お春の姿を見ているからか、密かにお春のことを想っている。それゆえ、善之助のことを嫌っているが、当人は嫌われている理由を分かっていない。てっきり二人が夫婦になるものだと思っていたからか、お春が別の家に嫁いでいったときは動揺した。甘いものが苦手だが、お春のためなら我慢してでも食べる。
こむらさき
小紫
遊女。数えで二十一歳。紫がかった黒髪と瞳を持つ。
貞吉のことを「貞さん」と呼んだりしている。
儚げな美しさを持つ。その母性溢れる様子から人気が高い。
客で好いた男がいたが、辻斬りを行ったため処罰される。後追いを考えたが恐怖心から行えず、今に至る。客として来た貞吉と不思議な関係になる。
貞吉から「年明きになったら一緒になろうか」と求婚される。六月生まれ。
おおむら せいじゅうろう
大村 清十郎
お春が嫁いだ大店の跡取り息子。お春の夫。
お春の優しさに触れて見初めたが、人の愛し方など分からないほど不器用ゆえ、初めは衝突があった。しかし、次第に惹かれ合っていく。
善之助から貰った簪を大事にしているお春のことを分かった上で、「これも一緒に持っていて欲しい」と櫛を贈った。
ベティ(エリザベス)
謎の少女。その正体は、死に神である。
善之助が発作で苦しんでいるときに現れ、善之助の命を救う。
善之助には「エリザベス」と名乗ったが、発音が難しいため、仕方なく「ベティ」と呼ばせるようになった。貞吉は聞き間違えて「お紅(べに)さん」だと思っている。
格好は黒いキャミソールに赤いチュールスカートだったが、善之助にすすめられた着物は素直に着ている。